視点 オピニオン21
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全国過疎地域自立促進連盟・調査研究部長 
湯沢 進 さん
(東京都東大和市 )

【略歴】前橋市出身。前橋高、群馬大卒。本県と埼玉県、自治省に勤務。この間、岡山市財政局長、熊谷市助役を歴任。本県林務部長を最後 。
仏像彫刻


◎日本のこころに触れる

 今年は奈良の東大寺の大仏が開眼されてから千二百五十年目という節目の年に当たる。奈良国立博物館ではこの春から「東大寺のすべて」展が開催されており、東大寺から外に運び出されることのない仏像など数多くの仏教美術品が出展されている。

 この春の連休の合間に、この国立博物館の展示品の見学と東大寺最古の建物である法華堂(三月堂)の拝観を目玉にしたツアーに女房とともに参加して、日本の古代文化の栄華を楽しんできた。行程は二日間で、東大寺関係だけでなく、初日は薬師寺と法隆寺、翌日は興福寺、国立博物館、東大寺法華堂と巡るものであり、帰りの京都駅への途中では浄瑠璃寺の拝観というおまけ付きであった。

 ツアー主催者のうたい文句は「日本のこころを求める旅」とのことであったが、いくつもの寺院建築、堂内のさまざまな仏像、展示された仏教美術品など、何を見たか忘れてしまうほど多くの文化遺産を見学することになる。これまでに奈良や京都の旅を数多くしたが、欲張って多くの優れたものを見たため、それぞれの特徴やその印象がかえって散漫になってしまうこともあった。

 今回は、多くを拝観する中で、これはというビューポイントを一つ決めておくことにした。そのポイントは、薬師寺、法隆寺、興福寺、東大寺であるのだから、日本に仏教が伝来し、飛鳥、白鳳、天平の時代へと続く仏像彫刻のそれぞれの時代の特徴と完成されていった姿が見られないかということにした。

 まずは飛鳥時代、法隆寺金堂の釈迦三尊像。いつものことながら中が薄暗く目を凝らさないといけないのであるが、中尊の釈迦如来は歴史の教科書でおなじみの聖徳太子のために止利仏師が造ったもの、簡素な造りの中にも強い霊気にあらためて日本の仏像のはしりに感動する。幸い中宮寺では、飛鳥から白鳳にかけての遺品といわれ、瞑想(めいそう)しほほ笑む半跏思惟(はんかしゆい)像にもゆったりと対面することができた。

 白鳳彫刻の典型が興福寺国宝館の仏頭、一丈六尺の大きな薬師如来像のうち頭部だけが残ったものとのことで、若々しくはちきれんばかりの表情に天智・天武朝時代の英気のようなものを感じた。

 天平の時代になると多種多様、私が特に好きなのは、薬師寺の端正で堂々としたお薬師様とその両脇のおだやかな日光・月光菩薩像、それと興福寺では、三つの顔と細長い六本の手を持ちひたむきに祈る阿修羅像などである。

 そして東大寺法華堂、本尊の不空羂索(ふくうけんさく)観音を中心とした巨大な十六体の仏像群に圧倒され、天平の理想像といわれるそれぞれの姿に感動するのみであった。

 ついでながら、今回の旅のツアーコンダクターは、旅行会社を定年退職し、まもなく七十歳にもなる張り切りボーイであった。手作りの資料やビデオまで持参し、この仕事が好きでたまらないとのこと。帰りのバスで平城山(ならやま)を越えるときには、かの「人恋うは悲しきものと平城山に……」を自信に満ちて熱唱し、喝さいを受けたのであった。

(上毛新聞 2002年6月30日掲載)