視点 オピニオン21
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造日本ユニバースシステム開発部総括部長 
松下 保男さん
(前橋市岩神町 )

【略歴】東京芸大大学院修了、上毛芸術奨励賞など受賞多数。太田市役所や太田高、館林・彫刻の小径などに作品設置。筑波大芸術学系助教授、モダンアート協会会員、日本デザイン学会会員、基礎造形学会会員。
修学旅行


◎実体験通じた感性必要
 いつものことであるが、春から初夏にかけては木々が息吹き、命が生まれ、新しい発見があり、新しい生活が始まる。

 東京駅の丸の内側から八重洲口側に向かって、少し上りの地下通路がある。毎朝、この中を雲がわき出すごとく人の頭がこちらに向かってくる。

 駅地下のホームの総武線や横須賀線から到着した通勤・通学客の移動が、一、二分ごとに繰り返される。私は新幹線のホームから丸の内側へ逆行する。この雲海の中を突っ切るのである。

 そして今ごろの季節、この雲海に別の集団が入り込み、流れを混乱させるのである。大半が制服姿の中学・高校の移動だ。整然と動く集団、騒然と動く集団、いろいろであるが、修学旅行生の一団と思われる。これから新幹線で関西方面か東北方面か、それとも東京都内見学か、出身地によりさまざまであろう。声のトーンもひときわ高く、もちろん楽しいに違いない。今では中学生が関西へ、高校生が飛行機で九州・沖縄、はたまた海外まで出かける。うらやましいかぎりである。

 朝の通勤・通学客に交じり移動する。東京駅ほどではないが、群馬県内の在来線や高崎駅構内の新幹線も同様である。高崎から東京までのわずか一時間弱、この時間を利用して睡眠補給、読書、仕事の準備、試験勉強などの貴重な時間でもある。

 私の修学旅行は高校二年時で、関西であった。新幹線を使った修学旅行は群馬県でも早い方だったが、当時、片道のみであったと記憶している。高崎線は上野が終着であり、山手線が二、三分置きに発着し、東京駅乗車予定の時間に十分間に合うことを知ったのは、京都に向かう電車が出発してからであった。乗り換えはあまり経験がなく、駅構内で前の同級生の後をひたすら追いかけた自分が東京と前橋のスケールの違いを感じたのは、さらにもっと後であった。きっと一般の通勤・通学客には随分迷惑をかけていたのだろう。

 自分の日常とは違うこと、テリトリーを離れて行動すること、多くの事柄が初めてなので、新鮮で感動することが多い。そして、地域の中で誰かに支えられていることを、大人は教えなくてはいけない。そういう私も、かつては先人たちに言われたことである。

 最近は時間に追われることが多く、ゆっくり消化して過ごすことがほとんどなくなった。高速道路、新幹線、飛行機と移動の手段が多様になり、テレビ、インターネット、携帯電話で新しい情報がすぐ手に入る。しかし、どんなにテクノロジーが進んでも、物に触ってみる、人に話してみる、聞いてみる、といった実体験を通じた感性が必要だと思う。そして先人たちの歴史を学び、バーチャルでない実社会を知ってもらいたい。

 これから今にも増して宇宙開発が進んで、種子島から修学旅行が始まる時代がくるかもしれない。また、どこかの港から潜水艦で海中旅行へ出発するかもしれない。かつて山口百恵の『いい日旅立ち』の流れる中、いろんな発見があったが、もっと違った発見があり、いろんな人に会うだろう。先人の言葉を借りるなら、「未来はすでに始まっている」。

(上毛新聞 2002年6月20日掲載)