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◎素直な気持ちで向かう 「この作品は何だかよく分からない」―展覧会場で、よくこんな会話を交わしている人たちに出会うことがあります。たいがいは、抽象作品の前での会話です。それでも、一瞬でも立ち止まって見るのならいいのですが、全くの素通りという人も少なくありません。せっかく展覧会場に足を運びながら、作品を十分に鑑賞しないのは何ともったいないことでしょう。そこで、今回は抽象作品の鑑賞について、日ごろ考えていることを述べてみたいと思います。 抽象作品には抵抗がある、こんな見方で良いのか自信が持てない、という人は案外多いのではないでしょうか。抽象作品はよく分からないという人は、多分、具体的な形がないから何を表しているのか分からないのではないでしょうか。それでは、具象的な作品、例えば風景や人物などの作品を見て分かったと言うことができるのでしょうか。はなはだ疑問です。作品の表層を視線でなぞっただけでは作品を鑑賞したことにはなりません。 鑑賞の基本は、まずは素直な気持ちで作品に向かうことです。先入観や偏見を持たずに作品に接することで、良質の作品であれば作品の方から訴えかけてくるものです。有名な作家だからとか、高価な値段がついているからといって良い作品とは限りません。また、造形の基本的な要素としての形態や色彩、テクスチャー(材質や質感)の魅力を探ってみることも大切なことです。つまり、作品を分析的に見ることです。ある作品に魅力を感じたらまずは自問してみてはいかがでしょうか。形が面白いのか、色がきれいなのか、そんな視点からも作品を見ることを勧めます。さらには作者の意図やねらいは何なのか、自分なりに考えてみることです。実はこのことが作品鑑賞にはもっとも重要で、他のジャンルのどのような表現においても共通していることなのです。 よく自分の見方で、感性で作品に接すれば良いといいますが、少しばかりの努力をすることで作品の本質により迫ることができます。自身の視覚経験を存分に生かしながら、良しとされる作品を数多く見ることで、美的直感力をつけ自分なりの見方を獲得していくことが大切です。感性を磨き、鍛えることで作品から得る感動も増大していきます。また、最低限度の知識は身につけることです。展覧会の資料から企画の意図を読み取ったり、作家の活動や表現に対する基本的な考え方等を知ったりすることも、作品をより良く鑑賞することの手助けとなります。関連の講演会やギャラリー・トークなどへの参加も有益だと思います。 芸術鑑賞は、人だけに与えられた高度な知的活動です。自身の感性と知性を働かせてみることによって、鑑賞の楽しみがさらに広がるのではないでしょうか。 (上毛新聞 2002年6月19日掲載) |