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コトバ表現研究所主宰 渡辺 知明 さん(東京都品川区東五反田 )

【略歴】桐生高、法政大卒。「桐生青年劇場」で公演活動に取り組んだ後上京、調理師専門学校講師を務めながら「表現よみ」を研究。日本コトバの会講師、事務局長。

話し上手


◎日ごろの訓練で向上

 話すのは好きだけれど、まともな話は苦手だという人がいます。「おシャベリならいくらでも続けられるけれど、人前で話すと、まとまった話ができない」と言うのです。でも話が好きな人なら、かならず上手になれます。そのために知っておくべき三つの原則についてお話ししましょう。

 第一に、話す目的を自覚することです。話の目的は三種類あります。一つは「説明」です。聞き手に知識や情報を伝えたり、ものの使い方を教えたりすることです。二番目は「説得」です。聞き手に何かの行動をしてもらうことを目ざします。三番目は「感動」です。聞き手を感動させて、おもしろがらせたり、喜ばせたり、悲しがらせたりします。おシャベリしているときでも、今の目的は何か考えながら話せば、相手にもよく伝わります。

 第二は、〈対話〉を意識することです。お互いがやりとりしながら知識や理解を深めるのが〈対話〉です。まとまった話のできない人は〈対話〉も苦手です。相手のこともかまわず、ひとりでシャベリまくったりしているようです。話をするときには、自分の心の中に「聞き手」を置きましょう。「私はきのう本を読みました」と話したらすぐ、聞き手の立場で自分に質問します。(何という題名の本ですか)と思ったら、「『晩年』という本です」と話します。次に(だれが書いたのですか)と来たら「太宰治が書きました」と話すのです。大ぜいの前で話すときも、ひとりの聞き手と〈対話〉するつもりで話せば、聞き手にも親しみと信頼の心が生まれます。

 第三に、話しかたの工夫です。話しコトバは次々に消えてしまうので注意すべきことが二つあります。一つは、重要なことから先に話すことです。はじめに要点や目的を「私は〇〇が……だという話をします」「わたしは〇〇について……するつもりで話します」と述べます。そのあとで説明や理由を話します。もう一つは、話の組み立てかたを示すことです。たとえば、話題が三つあるなら、その数を先に言っておきます。「私の話したいことは、三つあります。第一は……、第二は……、第三は……」という具合です。

 話しかたの能力は日ごろのちょっとした訓練で高められます。考えを声のことばで表現するのが話です。自分のことばで考えを自由に表現できる人が話し上手です。「表現よみ」は、文章からつかんだ考えを声に表現する訓練です。「書きなれノート」は、考えをことばに変換する訓練です。話しながら考えることはたいへんですが、話をするつもりで文章を書けばじっくり考えることができます。

 日ごろから表現よみをして、書きなれノートに自分の考えを書いていれば、いざというときに話をすることがずいぶん楽になります。また、コトバの能力が高まってくると、原稿を見ながら話しても、その場で話すような実感をこめられるし、個条書きのメモだけでもいい話ができるようになるのです。


(上毛新聞 2002年6月11日掲載)