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小泉重田小児科理事長 重田 政信さん(高崎市飯塚町 )

【略歴】東大医学部卒。医学博士。フルブライト留学生として渡米。現在高崎市で開業。国際ロータリー在日委員として世界のポリオ根絶に努める。厚生労働省「多民族社会の母子の健康」研究班班員。


外国人子女

◎言語習得環境の充実を

 法務省の「在留外国人統計」によると、在日外国人は増加の一途をたどり、平成十二年末の外国人登録者数は過去最高の約百六十九万人を記録して、日本総人口の1・3%を占めるに至った。これとともに国際結婚も急増し、平成十二年に届け出のあった婚姻件数の約5%は国際結婚である。子どもの増加は婚姻数の増加に何年か遅れて出現するが、日本の少子化が進行する中で、外国人を親に持つ子どもだけは既にベビーブームを迎えているといわれる。特にブラジル系新生児の増加が目立っている。

 群馬県も外国人登録者数は平成十三年末で四万三千人を超え、県人口の2・1%に達した。本県はブラジル系の外国人が多い関係から、外国人の血を引く子どもの出生数は県内総出生数の4・1%に当たり、この比率は東京都の5・5%に次いで高く、全国第二位を占める。これまで日本人は単一民族としての意識が強かったが、やがて先進諸外国の例に漏れず、多民族、多文化社会への道を歩むことになろう。

 群馬県はこの点で先進地域といえるが、ここで気になるのは外国人子女の福祉問題である。文部科学省の調査によると、日本人中学生が三年後に高校に在学している高校在学率は93%を超えるが、外国人生徒の高校在学率は50%以下であり、外国人の子どもの半数以上が高校にゆけずに日常生活を送っていることになる。中学から高校にかけての国語能力の習得が将来の知的生活や抽象的思考にとって重要な意味を持っていることを考えると、外国人子女のこの時期における言語習得環境の充実を図ることが、彼らにとって最大の福祉対策の一つに挙げられるであろう。

 日本は少子化・高齢化により、十五年以内に労働人口が18%減少すると予想される。もし日本の景気が上向けば、労働力維持のために在留外国人の増加傾向は一層拍車がかかるであろう。また、外国人への依存はブルーカラー的な労働力としての面にとどまらず、やがて広く外国人を知的戦力として受け入れる日が来るに違いない。こうした面で日本はまだ外国人を受け入れる魅力が乏しい国である。自然科学系ノーベル賞受賞者は、二十世紀後半から米国研究者が圧倒的に多いが、従来日本の自然科学系ノーベル賞受賞者がほとんど米国で研究生活を送って立派な成果を挙げていたことを考えると、いかに米国の多文化社会に対する対応がすぐれ、それが大きな成功を収めてきたかを実感できる。在日外国人子女の福祉問題は、単なる人道的な議論を超え、日本の将来の発展にも関係する問題である。

 こうした観点から、厚生労働省はこの問題に対する提言をするための「多民族社会の母子保健」を考える研究班を立ち上げ、この三月に班員が先進地である太田と大泉を訪問して第一回予備調査を実施した。幸い、行政当局、保健福祉事務所、医師会、ボランティア関係者の熱心なご協力を得て、順調なスタートを切ることができた。県民の皆様が日本の多文化社会化へのパイオニア精神をもって、この問題に深い関心を示されることを期待したい。


(上毛新聞 2002年5月19日掲載)