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高崎芸術短期大学教授 飴屋 善敏さん(宮城県鳴瀬町新東名 )

【略歴】スマイル唱法をアリゴポーラ氏に、指揮法をコロロイター氏に学ぶ。元宮城教育大教授。現在、高崎芸術短大で表現法を講義。松島の柏木島などに、不登校の子供たちと「創る村」を開設。




島での生活体験

◎子供は雄大な志を持て

 柏木島は、松島湾内にある小さな無人島です。唯一、私が個人所有の土地を手に入れたのは二十年前のことでした。訪れるたびに、自然の営みがつくる造形の美しさに感動してしまいます。

 東京から追いかけてきた五人の男子中学生と、この島の隣の野々島で生活を始めたのは、宮城教育大学に赴任した昭和五十五年のことでした。そのころは、よくこの島の洞穴で寝泊まりし、活動したものです。

 私が宮教大に呼ばれたのは、音楽リズムを研究するためでした。ところが、マスコミは一斉に「国立教育大学にガキ大将を採用」と報道したのです。この報道を見た親たちからの相談が相次ぎ、たちまち島に生活する子供たちは二十人の大所帯となったのでした。

 中学生たちが同行してきた経緯は次の通りです。私が村長をしていた町田市の青少年施設「ひなた村」に、「万能グループ」というのがありました。知識だけではなく、さまざまの能力をそろえなければならない、という私の考えに共鳴した子供たちがこの名前を付けたのです。それをさらにまた、「孫悟空」という名前に改名したのでした。

 孫悟空は、たった一匹で一万の敵に勝てるほど無敵で強い猿です。十万の敵が攻めてきた時、悟空は自分の毛を一本一本抜き、息を吹き掛けて十匹の孫悟空を仕立て、敵を撃退したのでした。この話を聞いた中学生たちは飴屋の分身になりたいと、私にとっては気恥ずかしい名前のグループをつくりました。この中の五人の中学生が親を説得して、私と共同生活を始めることになったのです。

 ところで、中国『三国志演義』に蜀の皇帝・阿斗と、宰相・諸葛孔明の話が登場します。皇帝の阿斗が自分が無能であることを自覚していたため、有能な諸葛孔明に政治の全権を任せたという話です。つまり「君臨すれど統治せず」です。

 中国の偉大な革命家、孫文は彼のデモクラシーの達成にあたって、この方法論を取ったことは有名です。彼の目指した革命は、民衆一人一人を皇帝にすることでした。しかし、まだ力不足であると考え『三序論』という方法論を唱えたのです。『三序論』とは、中国の革命を「軍政」「訓政」「憲政」と順序立てて行うことによって、人民による「憲政」が果たされるという考えです。「訓政」とは、教育を重視し、人民を啓もうして力を養成し、人民による真の政治である「憲政」を実現する政治です。

 そこには「人間は完成を目指さなければ存続できない動物である」という孔子の考えが根本にあるのです。荒廃した日本の民主社会を改善するために極めて示唆的なことに思われます。

 柏木島は、松島の瑞巌寺でも見かける洞穴が三つもあって、昔人が生活したと伝えられています。私はこの風光明美な松島で、子供たちに野性をよみがえらせる活動を試みたのです。

 一方、ベートーベンや孫文のような偉大な人にあこがれ、人類の永続と幸せに役立つことに喜びを持てる、雄大で高尚な志を育てたいと思ったのでした。この考えは、今も島の自然とともに脈々と生き続けております。


(上毛新聞 2002年5月8日掲載)