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◎母屋を取られた国産材 「木材は地球上で唯一再生産が可能な資源である」との大義の下で貯蓄形成をもくろみ、森林を育ててきたが、今や売れず切れずの状態で、林家は経営目標を失ってしまった。 木材の需要拡大を図り、川下のユーザーの関心を山林(ヤマ)に向けようと、「人にやさしい木のぬくもり」「森林は心のオアシス」などとうたってみたが、近年、スギ花粉が猛威を振るい、花粉症患者が全国にまん延し、森林に近づくどころか外へも出られない様相に、ニュースを聞くたびに肩身が狭くなる思いである。 ヒノキの場合、樹木から放出される「フィトンチッド」と呼ばれる殺菌力のある芳香物質が精神を安定させる効果があり、「森林浴」として人々を森林へ引きつけてきた。が、花粉騒ぎで影が薄くなってしまった。 ある週刊誌の特集記事では、花粉症にかかわる診療費や対処薬等の総医療費は昨年だけで約三千億円、患者の欠勤や早退による経済損失は六百億円と推定された。今後放置林が増えるに従い、花粉量とともに、掛かる費用も倍増していくのは確かである。伐採費用と医療費との比較検討の結果から「全国のスギの木を全部切れ」などの極論さえ出る始末である。真意は森林を整備し、花粉量を減らして患者を苦しみから救うよう、国は早急に施策を講ずること、税金をつぎ込んでも花粉症対策を進めよ、との内容である。 森林に関するさまざまなスローガンを掲げ、川下へメッセージを発信してきたが、荒廃した山林が増え、現状を知るほど空々しく聞こえ、むなしい気持ちになってしまう。 そうした中、久しぶりに林業に関しても明るいニュースが紙上に載った。ある産学協同の研究チームが、ヒノキに含まれる揮発成分を使い、ディーゼル車から排出される有害物質を除去する浄化装置を開発した。東京都の排ガス規制値をクリアし、近く実用化される予定である。 ディーゼル車の走行が都内でも可能となれば、産業界全体に及ぼす経済効果は計り知れないほど大きく、何よりもヒノキ材の需要が伸びれば間伐は進み、山林の維持管理が可能となり、林業界にとっても大きな福音である。 現在の人工林は苗の植え付けから保育に至るまで、税金を使った各種補助事業により形成されている。材が有効に活用されてこそ林業家の義務が果たされるのである。 経済成長期の住宅不足の解消、住環境の整備対策の一環から、国産材の不足分を補うべく、庇(ひさし)を貸すつもりで開いた輸入自由化の門戸から、洪水のごとく流れ込んでくる外国産製材品に抗しきれず、母屋まで占領されてしまい、今では国産材は行き場を失ってしまった。 二酸化炭素による地球温暖化防止が叫ばれ、世界的に環境が悪化し砂漠化が進む現在、安価で使い勝手が良いとの理由で外国の木材資源を消費し続けることは許されない。 (上毛新聞 2002年4月30日掲載) |