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高崎・歴史的建造物案内人 平野博司さん(高崎市飯塚町   )

【略歴】高崎市出身、72年、中央高校卒。家業の平野工務店に入社、40歳で前橋工業短大卒業、日本製粉高崎工場、旧高崎市庁舎、井上邸などを調査。


相続税につぶされる


◎歴史的建造物

 先日、本紙でも報道されたのでご存じのことと思うが、井上工業元社長、故井上房一郎邸が解体を免れた。高崎の文化向上に大きな影響を与えた井上氏の自邸が公売されるというショッキングな報道を見聞きした市民は、公売日当日までさまざまな反応を見せ、また種々の行動を起こした。

 そんな中、財団法人高崎哲学堂設立の会が公売に応札し、そして落札した。公売の新聞報道からこれまでの数カ月は、関係者にとって「日本のいちばん長い日」であったが、どうにか井上邸は解体されず、その命を永らえることとなった。関係者のそれまでの奮闘、努力、これからの苦労は察するに余りあるが、井上邸応援団を自負するファンはできる限り、さまざまな形で協力しなくてはいけない。そう、今、日本では残念ながら歴史的建造物はその数を減らすよう仕組まれているのだ。

 井上邸と同じ高崎駅前の豊田屋旅館は移転前の姿を辛うじて残しながら、本年四月十日南に移築し開業に踏み切った。これも所有者の数年間にわたる心の葛藤(かっとう)、友人、支援者との激論があった。

 今、歴史的建造物は、所有者のみの力で保存するのは非常に難しくなっている。私は、今まで解体の憂き目に遭った数々の名建築を見聞してきた。それぞれの所有者らには種々の事情があるにはあったが、大半は法的な壁を乗り越えることができず、解体せざるを得なくなっている。それは、所有者の代替わり時の相続税である。先祖が必死につくり上げ、そして大事に守ってきた建築物は、次の残された所有者にとって先祖への敬けんなる思い出とともに、多くの思い出の詰まった物である。継いだ者が必死に残そうと思っても、国からの相続税の請求により解体され、更地となって売却され、消えてしまうのである。

 また、他に歴史的建造物を所有していた先代の人たちと、それを継いだ人たちとの間のジェネレーションギャップや、価値観の相違が挙げられる。代々継がれてきた家で、先代の所有者はすき間風が吹き込む寒い広い室内のこたつに入って生活をしてきたのだが、若い世代の人たちは、アイデンティティーを感じられない偽洋風の外観で、床暖房されたフローリングの高気密、高断熱の部屋などにあこがれている。結果として、長い年月をかけて熟成された伝統的な風情あふれた街並みを、たった一日で壊してしまったりする。大きい声じゃ言えないが、そんな分らず屋は、高気密住宅でシックハウス症候群になってしまえ!(ゴメン、ちょっと興奮しました。訂正します)

 確かに最近の家が住み良いということは認めるが、歴史的建造物の持つ、長い間風雪に耐えてきたという歴史性からくる重みは、他の何にも替えることのできない物と思う。懐かしい父母の懐に似た癒やしの空間である。

 私は日夜、歴史的建造物の所有者を訪ね、その建造物に対する考えなどを聞いている。多くの人は、先祖から伝わったこの家を大事にしたいと言っている。この先、歴史的建造物はどうなることなのでしょうか。


(上毛新聞 2002年4月27日掲載)