視点 オピニオン21
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映像演出家 桜井 彰生さん(東京都墨田区緑町 )

【略歴】前橋市出身。新島学園高、早稲田大卒。記録映像作家として医療、介護などをテーマにドキュメンタリー作品を演出。文化庁奨励賞、国際産業映画ビデオ祭奨励賞、同経団連賞金賞を受賞。


口コミで需要増進を


◎絹製品 

  今年二月六日から十一日まで、日本絹の里で第十七回ぐんまシルク展が開催されました。主催は「群馬県絹需要増進協議会」。会場には文字どおり絹の需要を増進させるべく、知恵を絞ったさまざまな製品群が展示されていました。ブランドシルク製品、アパレル絹製品、シルクフラワーをはじめとする手工芸品等々。

 中でも私の興味を引いたのは「レインボー繭」でした。着色料を人工飼料に混合し蚕に与えると、何色もの色鮮やかな繭ができるのです。以前にレインボー繭を初めて見た時、その色の鮮やかさに感動を覚えたものです。新しい絹製品が誕生すれば、低迷する養蚕業を活性化できるのでは、と希望を感じました。

 しかし、レインボー繭の生産に取り組んでいる方にお話をうかがったところ、非常に厳しい現実を痛感させられてしまいました。まず、レインボー繭を用いた製品はいまだに作られてなく、使われるのは繭を用いたフラワーや人形といった手工芸品がほとんどであるとのこと。製品が作られないのは、売れない、コストを回収できない、という理由からだそうです。むろん手工芸品はそれ自体素晴らしいものですが、絹の需要を喚起し、養蚕の振興を図ろうとするならば、せめてハンカチや靴下程度のサンプル製品でも、レインボー繭で作らなければ話になりません。これは新技術が生み出した新しい絹糸で、色も染色したものではない、それをぜひ身につけてみませんか、と強力に宣伝する必要があるでしょう。

 さらに否定的なのは、レインボー繭の生産に取り組んできた多くのグループが属す県の養蚕婦人クラブが、平成十五年を限りに解散することです。養蚕に従事する女性の高齢化が進み、人数も減っているためだそうです。一方で絹の需要を喚起しようというさまざまな施策がありながら、一方で養蚕業の衰退を止められないのが群馬の厳しい現実です。絹の需要がない、だから製品が売れない、だから養蚕や製糸業が衰退する、という窮状をどう打開したらよいのでしょうか。

 私は、宣伝以外に方法はないと考えます。しかもコストのかからない方法でなければなりません。私は口コミを提案します。生まれてから一度も絹製品を身につけたこともないような人々の中に、絹の素晴らしさを知る人を一人でも多くつくることです。例えば「繭から採った真綿をガーゼに薄くのばし、肩こりや神経痛の個所に張っておくだけで症状が改善する、といわれているのをご存じですか。体に良い不思議な力を持つ絹、今では色鮮やかなレインボー繭から作った新しい絹もあるんですよ」といったことを会う人ごとに話をするのです。

 私は毎日のように蚕の不思議さ、天蚕の繭やレインボー繭の美しさと可能性を人に話しています。多くの人が絹の良さを熱心に語り、群馬に来れば素晴らしい絹の文化に出合えると宣伝しない限り、絹の需要は決して増進することはないでしょう。今や群馬の絹は、そんな切迫した状況というべきなのです。



(上毛新聞 2002年4月20日掲載)