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◎相手の思い受け止める カウンセリングというのは、時間と場所を提供し、クライアントの話を聞く仕事ですが、ただ漫然と聞いているのではなく、言葉の裏にある、その人の思いに寄り添うように耳を傾けます。人は自分の思いが相手に受け止められたと感じると、自然に心が開き、新たな気づきが生まれます。一見、受動的な行為が、主体的な力を引き出すのです。今日、カウンセリングへの関心が高まっている背景には、人と人との関係が希薄になった社会の中で、子供から老人まで多くの人が、自分の気持ちを聞いてほしいという切実な思いを抱えているためかもしれません。 本来、言葉を発し、それをじっくり受け止めるというかかわりは、人との関係性をつくっていく基本です。乳幼児期には、母親は子供の発信するメッセージを確かな感覚で受け止め、温かな働きかけを返していきます。この世の中に自分の訴えをキャッチし、こたえてくれる存在があるという安心感が、他者への信頼感を生み、自分も尊重されているという感覚を育てます。そして大切な人との愛着のきずなが形成されていきます。しかし最近、このコミュニケーションの原点ともいえる、母子関係のかかわりが揺らぎ、不確かなものとなってきています。 今の子供たちは、小さい時からテレビや雑誌はもちろん、インターネットなど多くの情報に囲まれて生活しています。また、子供の生活も部活や塾で忙しく、昔より時間に追われることが多くなり、家族がゆっくりと会話をする時間が少なくなってきています。子供たちは、一方的に情報を得たり、指示を受けることはあっても、心の中からわき出る思いをどれだけ真剣に受け止め、聞いてもらってきているでしょうか。自分の気持ちを相手に分かってもらえたという体験により、初めて安心感や満足感が生まれ、人の言葉が心に入っていきます。人の話が聞けない子供たちの増加は、見方を変えれば、自分の思いをじっくりと聞いてもらった体験のない子供たちが増えているということだとも言えます。 現代は忙しく、日常の生活をこなしていくだけで、慌ただしく過ぎていきます。親自身も多くのストレスを抱え、子供とゆったりとした時間の中で、向き合うゆとりが持てなくなってきています。しかし、そういう時代であるからこそ、「心を傾けて、相手の言葉を聞く」ということを大事にし、子供と向き合っていく必要性があると思います。 (上毛新聞 2002年3月16日掲載) |