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高崎・歴史的建造物案内人 
平野博司 さん
(高崎市飯塚町 )

【略歴】高崎市出身、72年、中央高校卒。家業の平野工務店に入社、40歳で前橋工業短大卒業、日本製粉高崎工場、旧高崎市庁舎、井上邸などを調査。



歴史的建造物

◎自然生かした点に注目

 音楽はメロディー、リズム、そしてハーモニーが必要であるが、近代的な街ではメロディーとリズムは聞こえるが、ハーモニーが聞こえてこない。リズムも速く、せわしなく、テレビから流れる商業主義に乗ったPOPSのようである。

 また、伝統的な街にはメロディーとハーモニーはあるが、リズムが聞こえない。新旧うまく混在した街は、メロディー、ハーモニー、リズムがあり、景観上も優れた街である。

 近自然型河川改修は、川の力を川自らの力で回復させる。直線的に改修された流路を再び曲線に戻し、流れをよどませたり、流れの中に岩石を配し、かつての川の流れに近づける。すると、川に生き物が増えてくるという。植物も増え、水質も改善されるという。

 歴史的建造物のこれからの在り方も、近自然的手法で考えたい。例えば、歴史的建造物を近自然的河川改修における流れの中の岩や石と考えるのだ。流れの中の石は流れを阻害するが、生き物にとっては都合の良いシェルターである。そこで生き物は生きながらえる。そこを基点に、かつての粘り強いリズム、メロディー、ハーモニーの三拍子そろった街が復活してこないであろうか。

 昔そこ、かしこにあった、生き物が多くすんだゆるやかな流れが、三面コンクリートになった時、得たものも多かったけれど、失ったものも多かった。

 一度自然を捨ててしまうと、その自然を復活させるには多大なエネルギーが必要となる。歴史的建造物がすべてなくなってしまう前に、保存・再生を考え、一つでも多く残って、かつてのしなやかで、したたかな街のにぎわいが戻るように願いたい。

 最近、テレビのコマーシャルや人気ドラマには、歴史的建造物を舞台に撮った作品が多くなったと感じられる。先日、新聞に木村拓哉が、古い日本家屋の二階の窓の手すりに体をもたれている広告が載った。

 ほかにも和室の書院や、日の当たる縁側で会話が交わされるものがある。ちょっと前は外国で撮られたものや、モダンな新しい建築物の中で撮られたものが、時代の先端のような風潮であったが、不景気だからとはいえ、国内で、しかも歴史的建造物の中で撮られたものが目に付く。それには広告の製作にかかわる人たちが、今の歴史的建造物をリアルタイムに限りなく近く知っている年齢になっているからかもしれない。歴史的建造物が新しい物として宣伝広告業界の人たちにとらえられているようだ。もしかすると、数年たったら歴史的建造物が時代の先端物となっているかもしれない。ちょっと楽観的すぎるかな。

 畳敷きの部屋、ふすまや障子で仕切られ、書院、床の間がある。障子を開けると日の当たる縁側。冬は寒いけれど、自然の材料で造られた健康住宅。家を借りるのなら新しいマンションもいいけれど、歴史的建造物もいいよ。


(上毛新聞 2002年3月4日掲載)