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高崎経済大学地域政策学部教授 
河辺 俊雄さん
(東京都新宿区若松町 )

【略歴】京都市出身、京都大学理学部卒。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。同大医学部保健学科人類生態学教室助手。92年高崎経済大学助教授、97年から現職。


フリ族

◎低栄養条件にも適応

 高地は厳しい環境ではあるが、これまで多くの人々がうまく適応し、生活してきたところである。パプアニューギニア高地のタリ盆地は、赤道直下とはいえ標高が八百―二千メートルと高いので、低地と比べて暑くなくマラリアもなくて、住み良い環境である。タリ盆地にはパプアニューギニアの紙幣の絵柄にも使われていて有名なフリ族が生活している。

 フリはウィグマン(鬘=かつら=人)とも呼ばれているように、祭儀のときに横に広いV字形や山形のかつらをかぶり、赤・黄・白の色鮮やかな顔料で身体を装飾して、歌舞伎役者のような迫力のある化粧をする。このような身なりで、縦長の太鼓を左手に持ち、右手で激しく連打しながら、速いテンポで跳びはねて踊るのである。その躍動する姿に感動させられるとともに、体に塗ったブタの脂と汗で黒光りする肌に、盛り上がった筋肉の美しさとたくましさに思わず見入ってしまう。フリは勇猛果敢なことでも有名で、近隣の部族からはフリが襲ってくるといううわさだけで逃げ出すほど、恐れられている。

 このような立派な体格をしたフリだが、その食生活はきわめて貧弱である。ニューギニア高地の人々が毎日食べているのはサツマイモであり、ブタは儀礼の時にだけ食べるにすぎない。サツマイモだけで高地人の立派な体格ができあがっている、と誇張して言われることもある。

 フリ族の実態を詳細に調べるために、身体計測、食物・栄養摂取、身体活動量の調査を行った。その結果、やはりサツマイモへの依存は高く、エネルギー摂取量は十分だが、タンパク質や脂質の摂取量がきわめて低いことが分かった。起伏の激しい山岳地帯の暮らしのため、身体活動量は重度である。

 フリの身長は低く、男性の平均値は一五八センチ、女性は一四八センチであった。体重はそれぞれ五九・五〇キロなので、それほど軽くない。高地生活のため胸囲は大きく、周径や皮下脂肪などは中程度である。つまり、サイズは小さいが、体格は良好で、筋量も十分にあると判断してよい。

 タリには医学研究所があり、一九七八年からフリの子どもたちの生年月日が記録されていたので、成長の分析を行うことができた。フリの子どもは成長が遅く、パプアニューギニア島嶼(しょ)部の子どもに比べると、男女ともすべての年齢において五―一五センチ低くなっている。サツマイモ中心で動物性タンパク質の少ない貧弱な食生活のもとで、成長速度の低下や思春期の遅れ、成人に達しても低い身長とはなるものの、良好な体格を維持している。

 高地の厳しい環境に対して、ニューギニア高地人は成長の過程で、身長は低いが体格を維持することで、低栄養条件に適応して生きているのである。


(上毛新聞 2002年2月27日掲載)