視点 オピニオン21
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コトバ表現研究所主宰 
渡辺知明さん
(東京都品川区東五反田 )

【略歴】桐生高、法政大卒。「桐生青年劇場」で公演活動に取り組んだ後上京、調理師専門学校講師を務めながら「表現よみ」を研究。日本コトバの会講師、事務局長。文芸同人「群狼の会」所属。



書きなれノート

◎話をするように書く

 コトバの能力には「読み・書き・話し・聞き」と四つの分野があります。一番面倒なのが「書き」ですが、書く力を伸ばすことによって、ほかの三つの能力も高めることができます。今回は書く力をつけるための「書きなれノート」についてお話しましょう。

 「書きなれノート」には、安く入手できるB5判の大学ノートを使います。表紙にはタイトル、使いはじめの年月日、名前などを記入します。一枚目は空けて目次をつくるためのページにします。二枚目から見開きにして片面一行おきに書きます。縦書きでも横書きでもかまいません。エンピツで書けば、消しゴムで消して何度でも書き直せます。空いた行と空いた面には、追加や訂正の文を書くことができます。初めの文を見ながら書き直しができるので、十分な推敲(すいこう)ができます。

 「書きなれノート」とは、文字どおり文章に書きなれるためのノートです。書くことへの抵抗をなくして、気がるに書けるようにするためのものです。原稿用紙ではなく、ノートに書くのがミソです。学校時代に作文の原稿用紙に悩んだ人はいるでしょう。ノートには、マス目がないから気楽に書けます。一日十五分、書く時間をとりましょう。一カ月も続けると、コトバが次々に浮かぶようになります。ノートに向かって、話をするようなつもりで書けばいいのです。たとえばこんな具合です。

 「今日、私は新聞で書きなれノートというものを知った。試しに文房具屋でノートを買ってみた。そうしていま書き始めた。…」

 ただし、一つだけ心がけることがあります。他人が読んでも分かるような文の形で書くことです。文の基本は、主部(ナニガ・ダレガ)と述部(ドウダ・ドウスル)です。メモをするように単語で書いたり、自分流の省略をすると他人には分かりません。主部と述部のある文で簡潔に書いて、文と文は接続語でつなげばいいのです。「そして」「だから」は省略して、考えを深めるための「なぜなら」「たとえば」を使うようにしましょう。

 書くことは考えることです。自分の考えをコトバのかたちに組み立てることです。日ごろ、私たちは考えることなく、あいまいなイメージですましています。どんな単純な考えでも、形にしない限り考えとは言えません。考えは文に組み立てたり、文章に書くことによって確かめられるのです。

 「書きなれノート」は日記代わりだけではなく、さまざまに応用できます。手紙や原稿の下書き、結婚式のスピーチ、電話をする前の考えのまとめ、人とトラブルがあったときの反省など、どんなことでも「書きなれノート」に書いてみてください。

 「実行が実力を生む」―まずはノート一冊を書き終えるまで試してみてください。三十枚つづりのノートなら一カ月です。そのときには、書くことが楽になり、楽しくなっているでしょう。そして、あなたのコトバ能力がアップしたことに気がつくことでしょう。



(上毛新聞 2002年2月21日掲載)