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県老人福祉施設協議会会長 大林 美秋さん(吉岡町小倉 )

【略歴】専修大経済学科卒。社会福祉法人・薫英会の知的障害者施設、薫英荘指導員を経て特別養護老人ホーム船尾苑苑長。93年から県老人福祉施設協議会会長。現在、県社会福祉協議会副会長。


家賃徴収ありきは疑問

◎特養のあり方

 平成十四年度から新型の特別養護老人ホーム(以下・特養)として、全室個室・少人数単位のユニット型ケア構想が、厚生労働省により打ち出された。老人ホームが歴史上支えてきた救貧対策的な発想の名残や、集団生活からイメージされてしまう劣悪環境からの脱皮―などとマスコミに取り上げられ、関係者のみならず、これから利用するであろう潜在的利用者からも注目されている。

 このことは、特養利用者にとって、個別性の高い良質な介護が求められている証拠でもあり、プライバシーの問題も含め、今後の生活介護施設としての機能を持つ特養のあり方に、期待が持たれている証拠であろう。

 しかし、現在五十人定員で三対一の職員配置であっても、日常の直接介護に当たるのはわずか六、七人である。着替え、移動、配ぜん、食事、排せつ、入浴などの生活介護を、チームとして行っている。すべてとは言わないが、チームだからこそ支え合い、可能となっている介護もある。ユニットケアの理想的理念(個別ケア)については時代が求めていることであり、大いに賛同するところである。われわれ既存の特養でも、可能な限り個別ケアを目標としているところでもある。

 だが、すべて完全個室であり、十人程度の小集団ごとの利用者に「その人らしい尊厳ある生活」を保障するということは、介護者の「質と量」そのものであり、現実問題、介護能力の高い大勢の介護者の確保が必要となる。発想を変えても必要になるのは費用である。

 昨年、船尾苑において(和室の個室を含む)十床のユニット型の増床建設を試みた。期待をしていたユニットケアであるが、理念通り本当にうまく利用者や家族に利用されているかどうか、残念だがまだ答えが出ない。

 さて、既存の特養は個室であっても、介護保険により利用料は一割負担である。食費を含んでも月六万円程度で利用できる。個室の差額などを求められることはない。

 全室個室・新型特養に伴うホテルコスト(家賃)について、利用者負担の問題が新たに浮上してきている。家賃の想定は数万円とも聞く。新型特養になった場合、利用料の合計が月十二万円を超えることになることも想定できる。この費用負担の可能な利用者が、どのくらいいるであろうか。

 既存の特養の進むべき方向性や、本来の老人福祉法で求められる特養の必要性を明確にせず、全室個室・新型特養構想が先行することや、発生する特養の家賃徴収ありきの議論は、危険過ぎるのではないか。どのような環境の利用者であっても個室が使える方法論の検討や、それを支えていく介護保険制度と措置制度の仕組みの見直しなど、あらゆる方向からの検討が迫られている。

 現在、県内だけで三千人を上回る特養利用待ちの方々がいると言われている。その多くが国民年金受給者であるということからも、いま何が求められているかを想像することは、難しいことではない。


(上毛新聞 2002年2月16日掲載)