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建設会社勤務(管理建築士)
 川野辺一江さん
(館林市近藤町 )

【略歴】東洋大工学部卒。都内の建築設計事務所勤務などを経て結婚後、一級建築士に合格。管理建築士を務めている。館林市の中心市街地再生を考える「まちづくりを考える研究グループ」メンバー。


バリアフリー

◎目的に合った利用を

 わが国では一九九四年に「高齢者 身体障害者等が円滑に利用できる特定建築物の建築促進に関する法律」(通称「ハートビル法」)が施行され、病院・劇場・集会所・デパート・ホテルなどの公共的建築物では、出入り口の一つは車いすが通行できるものとし、視覚障害者用の誘導ブロックを設けるなどの基準が定められた。

 昨年、私の住む市では歩道をアンツーカー色に舗装し、途切れる部分の段差をスロープにして、車いすの歩行をスムーズにする工事が行われた。ここ数年来、公共施設の駐車場に車いす用の駐車スペースが設けられ、入り口へのアプローチも斜路と階段が併設されるようになった。敷地内の歩道には、視覚障害者用の誘導ブロックが敷かれ、建物の中まで導かれるようになっている。車いす使用者用の便所も、ほとんどの公共施設で設置されている。

 バリアフリーの環境づくりが徹底することは喜ばしいことだが、目的に合った利用のされ方をしているのだろうか。ほとんどの車いす使用者用駐車スペースは車が混みあうと健常者が駐車してしまい、車いすを使用している人が使っているのを見るのはまれだ。駐車禁止の掲示板が置いてあるのに、視覚障害者用の誘導ブロックの上に駐車する車がある。

 「視覚障害者用の誘導ブロックが義足に引っ掛かって危ない。せめて義足の歩行者が歩ける幅だけ、誘導ブロックの一部を空けてもらいたいのだが…」と義足を付けている人から聞いた。障害の事情によりバリアフリーがバリアになってしまう例で、早急に改善する必要がある。

 私は公共施設や高速道路のサービスエリア、デパート、劇場、JR等を利用する時、必ず車いす使用者用の便所を観察することにしている。一般用の便所が多い施設では、車いす使用者用の便所を使う健常者を見ることはないが、デパートや劇場など混みあっている便所では、健常者の女性が平気で車いす使用者用の便所を使用している。車いす使用者が付き添いの人と外でじっと待っている光景を見ると、バリアフリーが生かされなくて残念だ。

 建物を設計する時点で、健常者の便所と車いす使用者の便所の位置を明確に分けて、ルール違反を起こさせないようにする工夫がほしい。視覚障害者用の誘導ブロックに車を駐車していることを施設管理者に話して、誘導ブロックのわきに工事用のついたてを並べて、駐車できないようになったところもある。

 バリアフリーを徹底させるためには、今はまだ健常者(いずれ高齢者になるし、明日、身体障害者になる場合もある)である自分がバリアフリーについていつも関心を持ち、不都合な点があったら、ためらわず声を出してみることが大事であること。バリアフリーは私自身のためにあることに気がついた。


(上毛新聞 2002年2月3掲載)