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◎知識や体験を生かす 今からだいぶ前の話だが、一九七九年に筑波大学に、英国ラフーバラ大学から客員教授として、イングランドラグビーナショナルチームのコーチ陣を指導するというコーチ学の大家であるジム・グリーンウッド氏が来校した。彼は滞在二年の間、多忙な中を筑波大学ラグビー部の指導にも立ち会ってくれた。 しばらくチームの練習を見た後、彼は学生たちにこう質問した。「君たちはスポーツをやるうえで何が一番大事なことだと考えているのか?」。学生たちは考えた末、一様に「根性」と答えた。競技の激しさからくるラグビー部員ゆえの答えである。闘争心(根性)も確かに大事な要素ではあるが、このときグリーンウッド氏の望んでいた答えは「判断すること」であった。 滞在期間中、グリーンウッド氏は他の競技の指導者たちにも接し、「コーチは先に答えを与えるのではなく、選手たちに考えることが大事であると自覚させることだ。そして、コーチの考えている方向に選手を導いてゆくことである」ということを口をすっぱくして言っていた。 ある事を学ばせる時に、問題の答えはこうこうですと教えてしまえば、問題の意図していることや深みなども考えることなくそこで終わってしまう。記憶にもきちんと深くとどまることはないだろう。 しかし、答えを教えられず、自らが問題と相対してあの方法、この方法といろいろな答えを探し出す作業をすることにより、幅広い知識を得たり、体験が豊富になる。その結果、決定するまでには多くの選択肢があることを理解するのである。そのような過程を経て得た知識や体験は、経験として判断する上でなくてはならない貴重なものであるし、一番自分にとって確実で信頼のおけるものとなるのである。 七〇年代になり、日本の繁栄とともに多くの欧米人のスポーツ指導者が来日し、また選手たちの国際交流が盛んになったことにより、科学的なトレーニング方法と心理面を考えた指導法が入ってきた。彼らは悲壮感漂う日本の競技者にビックリし、「もっと楽しめ、リラックスしろ」と口をそろえて言ったものだ。 しかし、競技スポーツの最終目的が「勝利すること」であることは、海外でも日本でも同じである。根性で監督やコーチに言われたことを、それこそ血を吐くような練習を繰り返し身体に覚えさせて勝利を取るか、それぞれが勝つためにはどうしたらよいかを考え、個々のフィットネスアップやスキルアップ、チーム全体のバランス(戦い方)をはかるような練習を積み上げて勝利するかの違いである。 結局、グリーンウッド氏の言う「判断すること」を身につけるには、厳しくもまた苦しいトレーニングを経ての結果であり、それが強制されて行われたものか、自ら考えて必要性を納得して自発的に努力するかの違いである。 自分でいろいろ思い悩み、試したり繰り返したりして出てきた判断で勝利を導いた時、初めて楽しくもあり、達成感も喜びもあるのだ。自分でさまざまな局面を想像して、それに対応する準備が用意周到であれば、余裕ができてより精度の高い判断が生まれ、必ずや良い結果がついて回るものである。 (上毛新聞 2002年1月26日掲載) |