視点 オピニオン21
 ■raijinトップ ■上毛新聞ニュース 
城西国際大学大学院比較ジェンダー論専攻 
山口理恵子さん
(沼田市恩田町 )

【略歴】城西国際大大学院在学。93年に沼田女子高卒、同年、筑波大入学。大学院修士課程を経て米・ユニバーシティ・オブ・ノースカロライナーグリーンズボロー校スポーツジェンダー学聴講生。


ジェンダー・バイアス

◎性別は個性の一部だ

 前回は、スポーツの歴史的背景を「女性」という視点から振り返り、「女なるもの/男なるもの」といった、性別をもとにつくられる固定概念を「ジェンダー」と呼ぶことを紹介しました。
 「ジェンダー」は、男性が「優(上)」、女性が「劣(下)」という非対称関係を含意する概念でもあり、この非対称性をもった偏見、先入観を「ジェンダー・バイアス」と呼びます。今回は、スポーツにかかわる「ジェンダー・バイアス」について考えていきたいと思います。

 私の中学時代の体育では、女子は「創作ダンス」、男子は「武道」とカリキュラムが性別によって異なっていました。また、男女共学の学校で、サッカーやラグビーなどは男子の部活動、とされている学校もいまだ多いように思います。

 柔道や剣道を習う女の子、サッカー教室に参加する女の子は結構いるのに、なぜ学校のカリキュラムや部活動には性別による違いがあるのでしょう。

 学校だけではありません。私は以前、女の子と男の子が約半数ずついる幼児対象の体操教室で、ボール運動やマット運動といった基礎的な動作を教えていました。小学校にあがる段階で、ある親御さんから「うちは男の子だから今後サッカーを習わせたい。女の子のいるお宅はダンスを習わせるようだ」と言われました。親の要求や期待とは裏腹に、「今日はサッカーやるの?」とサッカーの大好きだった女の子が私の腕にすがってきたことが、今でも忘れられません。

 これらは、表現力や審美性を重視するダンスを女子の活動、伝統的かつ力強さ、速さ等を競う武道、サッカー、ラグビーなどを男子の活動とする、学校や親による「ジェンダー・バイアス」です。

 また、スポーツの中の女性がメディアでクローズアップされる時、よく家族役割や容姿などがセットになって表象されます。例えば「ママさんプレーヤー」「主婦ランナー」「美女対決」などなど、挙げればきりがありません。「パパさんプレーヤー」とはめったに表象されません。

 スポーツ新聞などでは、スポーツをする側、見る側の「基準」が「男性」に想定されていることがよくあります。そのため、女性アスリートの活躍を表象する際に、「男性ではない」アスリートであることを強調する必要があり、「ジェンダー・バイアス」のかかった表現が使われてしまうのです。

 スポーツ領域では「男性」のほうが体格、身体能力において「女性」よりも優れているとされているようですが、身体的、精神的な性差というのは、社会的に認められているほど実際には大きくないことがわかってきています。女性・男性といった性別は「個性の一部」であり、「女性でも、男性でも」と、性別に関係なく「個性」の尊重される社会やスポーツを考えていきたいですね。



(上毛新聞 2002年1月25日掲載)