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ぐんま天文台観測普及研究課長
 倉田 巧さん
(高山村中山 )

【略歴】沼田高校、群馬大学教育学部卒。昭和54年から吾妻郡、沼田で小・中学校勤務。平成7年より県教委指導主事として、天文台建設に携わる。平成11年より現職。



宇宙人

◎地球訪問の証拠がない

 地球外知的生命体はいるのでしょうか。また、彼らは地球に既に来ているのでしょうか。前回、知識があればデマにだまされず、きちんと判断できると申し上げました。少し検証してみたいと思います。

 現在の考え方によれば、太陽程度の恒星と地球のように惑星と水が液体で存在できる環境があれば、生命は結構発生するらしいのです。しかし、この生物が高等な知能を持ち、他の天体に出かけられるような生命体に進化するかどうかについては、結構議論が分かれています。多く見積もる人で一つの銀河(数千億の恒星で形成)に数十万個、少ない人で一個です。生物学的には、人類型(内骨格、ほ乳類など)の高等生物は、今から数億年前のある生物を起源としています。この生物が多様な脊椎(せきつい)動物に分かれていったのですが、その原因は「偶然」という説があります。もう一度歴史をやり直しても、人間にはつながらないと言われます。

 さて、宇宙人来訪の可能性についてです。地球を例にすれば、ここまで進化するのに四十五億年以上の時間を要しています。その間、太陽が安定してエネルギーを供給してくれる必要があります。第一ハードルとしては、主星の大きさです。寿命が四十五億年以上ある恒星の周りの惑星に、知的生命存在の可能性があるわけです。主星が大きいと早く燃え尽きてしまいます。逆に、あまり小さいとエネルギーが「赤外線領域」になり、十分にエネルギーを供給できません。第二ハードルとして、太陽質量のせいぜい一割以内の主星が必要ということです。第三ハードルとして、惑星の主星からの距離、大きさ、水の有無などがあります。こうして、多くの幸運と奇跡的偶然が重なると、高等生命が生まれるわけです。

 雑誌やテレビ番組で、エイリアンの地球訪問をもっともらしく伝えているものを見ます。中には、出身母星を「ベガ」「プレヤデス」「シリウス」などと限定しているものがあります。しかし、これらの星々の寿命は数百万から数千万年で、数十億年の生命進化を保障できません。具体的には理科年表や星図を使って、その星のスペクトル型が「G」でない星を指していたら、それはデマと思ってかまわないわけです。

 最後に、どうやって地球に来るかです。ロケットなり、空飛ぶ円盤なりの物体を移動させる方法は、今の科学では「作用反作用」の原理を使用しています。ロケットは吹き出すガスのスピード以上の速度を出せません。また、「全てのものは光速を越えない」というアインシュタインの相対論の縛りがあります。「ワープ航法」や「宇宙エネルギーの利用」などとUFO研究者は言いますが、理論や原理すら存在していません。

 もし、宇宙人の寿命がとてつもなく長く、数百、数千年を宇宙旅行に費やせるなら、地球訪問の可能性が残ります。宇宙人はいるのでしょう。科学的探査も行われています。ぜひ、地球に来てほしいものです。彼らから得るいろいろな知識や技術もあるでしょう。友好的でない宇宙人なら、とっくの昔に地球など征服されているはずですから、きっと心穏やかな宇宙人でしょう。しかし、証拠がないのです。宇宙人が来たという事実は、明治維新や産業革命などをはるかに越える「超」空前の画期的事件ですから、極秘や隠ぺいなどあり得ないと思うのです。



(上毛新聞 2002年1月24日掲載)