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◎入浴は風に吹かれて とても衝撃的でした。まるで、遠くの方で炎が燃え上がっているかのよう。それは見事なものでした。和太鼓の林英哲がウィーンフィルと共演したのをテレビで見た時のことです。 次も衝撃的な話です。ある日、宮本武蔵は、ノミで切り落とされている木の切り口を見て、思わず慄然(りつぜん)としてしまったのでした。「俺(おれ)よりうまい奴(やつ)がいる」。その切り口の揺れの厳しい息づかいは、武蔵にとってぞっとするほど陶酔的だったのです。 さて、動作には優劣があり、良い動作は、戦いを有利にし、仕事を持続させ、老化を防ぎ、そのうえ人に快感を与え、失神さえさせてしまうのです。 不思議にも、自然界は緊張と弛緩(しかん)の両極を持ち、生物たちは一定の法則でこれを繰り返しています。この振幅運動は、入力とともに緊張し、脱力して弛緩するというものです。しかも、この緊張←→弛緩の動きは速度が変化し、緊張←で心は高揚し、弛緩→では休息感を得るのです。また高揚感と休息感は、繰り返すことで陶酔的快感を作り出すのです。 これを私たちは、風の動きや波の寄せ引きに、よく知ることができるでしょう。野生の動物たちのしなやかな動作も同じです。赤ん坊の動作や「オギャー」の声は、まさに百点満点です。 この自然界の揺らぎは、最近、科学者たちによって研究が進んでおりますが、私たちに一番分かりやすいのは、ボールが床に弾んだ時や、石きりをした時のバウンドする間隔が段々狭くなることです。振りが小さくなって止まるブランコもそうでしょう。これは「f分の一の揺らぎ」と呼ばれております。 この自然の持つ快感の揺らぎは、生物を育ていやす力をも持っているのです。風に吹かれながらおふろに入ると、身体の働きはもちろんのこと、頭がよくなるのもその一例でしょう。 ところで、私は高体連の入場行進でブラスバンドの指揮をとったことがありました。大会当日、選手たちはこの自然のテンポで、早くなったり遅くなったりしながら行進をしたのです。効果てきめん。開会式が大変盛り上がったのです。選手たちはファイトで心も身体も躍動したのでした。大会会長の富田氏が私に駆け寄り、「ブラボー!」と叫んだほどです。このような経験は山ほどあります。 さて、投げる・押す・引くなどの動作をしながら、こみ上げてくるほどの笑いで声を出すスマイル唱法は、やる人も聞く人もうれしさで有頂天にしてしまいます。この喜びを一番素直に表現してくれるのは、いつも子供や障害を持つ人たちでした。この自然のリズムは、教育や医療にもっともっと役立つはずです。研究すべき余地はまだまだあります。皆さんも取り組んでみませんか。 リトミックの開発者、ダルクローズは「指導者に必要なのは、ピアノや歌を上手にこなすというような技術ではなく、大切なのは自然な身体と自然な心の働きができることだ」と提言しているのです。 (上毛新聞 2002年1月20日掲載) |