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◎イタリアの旅 アメリカで同時多発テロ事件が起きたのが九月十一日、その三日後の十四日から「シシリー島・マルタ島と南イタリア十五日間」のツアーに女房とともに参加し、長旅をしてきた。 旅行社はイスラム原理主義と関係のないところだから、予定どおり実施と早々に決めたし、事件後だけに、どの飛行機も空港も念を入れて警戒するだろうから、かえって安全かなと、勝手に決め込んで出かけた。帰ってから、娘に「よく行ったわね。私の会社なんか、外国出張はすべて中止だわよ」とあきれられた。 旅は順調そのもので、連日抜けるような青空に恵まれ、始めから終わりまで、紺ぺきの地中海をめぐる自然の景観と、古代やギリシャ時代からの多様な民族と宗教が織り成した文化遺産に感激し、その迫力に圧倒される思いであった。それに何と言っても食べ物がおいしい。パスタやラザニアなどは言うに及ばず、魚介類や果物が豊富、甘いケーキもたっぷり、もちろん、それぞれご当地のワインを楽しんだ。 四日目に訪れたのが、南イタリアのアルベロベッロという町。アルベロとは「木」、ベッロは「美しい」とのこと。昔は美しい森があったことから名付けられたようであるが、今は一面のオリーブ畑が町を囲んでいる。町には十五世紀ごろからの「トウルリ」と呼ばれる真っ白な壁と、薄茶色のとんがり屋根の家が保存され、今もその家で生活が営まれている。町全体が、世界遺産に指定されている観光地である。 ここでの現地ガイドは、千葉県出身で、ここに住んで十年目の陽子ラエラさん。ユネスコ・クラブのボランティアガイドで、ちょうどこの日はお子さんの小学校の入学式に当たり、そのセレモニーを終えてからわれわれを案内してくれた。家族のきずなの強いイタリアで、ご主人の両親との同居生活の厳しさなどをつれづれに語っていた。冗談に、かつてここを旅行してお土産屋に買い物に入り、それが縁でそのお土産屋のお嫁さんになったとか。 一通りのガイドが終わって一息ついた所がそのお土産屋さんの前で、ご好意により家の中を見せていただいた。渡りに船で、合間にみんながお土産を買い込んだ。私もトウルリにオリーブの老木をあしらった構図のリトグラフを手にいれた。 日本から遠く離れた異郷に暮らす女性が子供を育て、家族を守り、ボランティアをして訪れた人を楽しませ、そして嫌みなくうまく商売もする。何とほほえましく、たくましいことか。 マルタ島では、二日間にわたって熊本県出身の友子カッサールさんにガイドをしていただいた。彼女はマルタに住んで十七年目、マルタ人と結婚し、子供を育てながらの仕事である。持ち前の研究熱心さで歴史や文化に精通し、マルタでの長い生活体験からマルタの風土の温かさを味わっていただきたいと、心のこもったガイドにわれわれは満足し、心良い思い出を残した。 今回は自然や文化のだいご味だけでなく、日本の女性が広い世界に飛躍し、その地に根を張って、強く生きている女性の真の美しさにも感銘した旅であった。 (上毛新聞 2002年1月10日掲載) |