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◎地域文化 農耕民族である日本人にとって、古来の「地域」とは「生産・収入・生活の単位」でした。だから、地域ネットワーク(地域活動)というのは生きるための基礎であり、お祭りにしても単なるエンターテインメント(娯楽)ではなく、人間関係を深めるための礎、極端に言えば、参加しなければ死活問題にまで発展する、真剣な行事であったと考えます。 一方、現代の「地域」とは、その多くがベッドタウンを指していると思います。地域の人々は、別々の職業と職場を持ち、地域より職場に力を注いで生活しています。 また、地元の祭りも単なる文化財でしかなく、多くの人は無関心です。休みになれば、ディズニーランドに行ったり、徳島の阿波踊りに参加したり、ハワイへ買い物に行ったりと、個人の楽しみ方は地域内にとどまらず、逆に地域外で時間を費やす人々が、特に若い人々を中心に著しく多くなっています。 IT(情報技術)の発展により、インターネットを駆使すれば、全世界から多くの情報を得ることができ、世界中の人々と直接連絡を取り合うことも可能です。日本人のその行動範囲は、グローバル(地球規模)化し、より鎖国のない自由経済社会の海に飛び込んでいっている、と言っても過言ではないでしょう。 いまや日本人の生活・行動、つまり文化意識の中では、地域とは単なる行政区を言うのみで境界線が無くなっており、もはや線を引く意味が全くありません。 そう考察すると、現代社会に地域活動は存在しないのでしょうか? いいえ、大地震や大火事が起こったような「緊急災害時」には機能しています。 それでは災害が無く、生きがいや楽しみや解決すべき問題がいくらでもあり、またそれが地域・隣近所の人々の力を必要としない場合、地域というものは一体何を言うのでしょうか。このような時代背景の中で、文化ホールは、行政区域内の方々へ娯楽サービスを提供する、単なる「見せ物小屋」でよいのでしょうか。 文化とは「無用の用」であり、無くても生きられます。しかし、そういうものが知的で、そういう知識が生活を豊かにするのではないでしょうか。伝統とは肯定しつつ受け継ぎ、否定しつつ磨きをかけ、時に新風を吹き込んでゆくものです。 文化ホールが、人と人を結びつけ、地域の伝統を取り入れつつ、新しいものを築き上げる場所であると定義するのであれば、行政と住民は今後どのような関係を築いてゆけばよいのでしょうか。もちろん経済尺度や数字ですぐに回答が出るような問題ではありませんし、多くの地域の方々が一緒に時間をかけて模索する永遠のテーマであり、長期的な視野で考えないといけません。 また、われわれの意識も、「地域文化は先祖から受け継いできたものである」という認識から、「未来の人たちから預かっているものである」という発想に転換。「われわれが未来の人々へ引き渡すためには、どうしたらよいか」という意識で、地域社会を構築すべき時代に突入しているのではないかと、新しい時代の到来を肌で感じる昨今です。 (上毛新聞 2001年12月17日掲載) |