視点 オピニオン21
 ■raijinトップ ■上毛新聞ニュース 
小泉重田小児科理事長 
重田 政信
さん(高崎市飯塚町)

【略歴】東大医学部卒。医学博士。フルブライト留学生として渡米。現在高崎市に開業。国際ロータリー在日委員として世界のポリオ根絶に努める。厚生労働省「多民族社会の母子の健康」研究班班員。


体の病気が潜む場合も

◎異常行動

 文部科学省の学校基本調査によると、平成十二年度に三十日以上欠席した不登校の小中学生は、過去最高の十三万四千人に達した。不登校には算入されないが、教室で勉強することができないで保健室に逃難する、いわゆる「保健室登校」の子どもたちを加えると、この数字はさらに大きくなる。

 一方、青少年の凶悪犯も増え、十二年上半期の殺人は前年の約二倍、強盗は前年の二割増と大幅に増加した。覚せい剤乱用少年も、前年比で四割以上も増加している。

 このような子どもたちの問題行動の増加は、これまで主にストレスの影響や、家庭、学校、および地域社会の教育力低下などの、「心の問題」として論じられ、今の育児環境の精神的風土を否定するような見解が繰り返し述べられてきた。しかし、これらの異常行動を示す子どもたちには、「心の病気」とは別に、しばしば「体の病気」が潜んでいて、それが子どもの行動に大きな影響を与えている場合が少なくない。この事実は家庭でも学校の教育現場でも、十分には理解されていないと思われる。

 例えば、平成九年に神戸で起こった十四歳の少年による生首殺人事件、いわゆる「酒鬼薔薇(さかきばら)事件」の犯人は、小児精神科医によって「注意欠損・多動性障害」と診断されていたことが指摘されている。この病気を持つ子どもは、すぐに「むかつき、キレル」ことが特徴であるが、薬物療法によって驚くほどよくなり、多くは大人になるに従って治ってゆくことが知られている。もし犯人の母親に、そうした知識が与えられ、正しい治療方法が示されていれば、あのいまわしい事件は未然に防げた可能性が大きかったと思われ、まことに残念な結末であったといえよう。

 また、通常「心の問題」と思われている不登校の場合も、その三十―四十パーセントに、「起立性調節障害」という「体の病気」が潜んでいるといわれる。この病気にもよく効く薬があり、その診断さえ正確につけば、心の問題とは別に、体の問題として小児科医の手で解決できるケースもまれではない。このような「体の病気」が増えてきていることも事実であり、それを「怠学」と混同して、子どもを叱咤(しった)激励することは、まさに逆効果を生むだけである。

 「いじめ」や、親による「子ども虐待」も、いじめられたり虐待を受ける子どもの側に、そういう扱いを受けやすい体質的な弱点がしばしば見受けられる。この弱点を医学的にカバーすることによって、いじめや虐待を防止することが可能な場合も少なくないと考えられる。

 これまで社会心理学的な立場から「心の問題」としてとらえられてきた子どもたちの異常行動も、視点を変えて臨床医学的な立場から「体の問題」として再検討する余地があり、また上述の事実を親たちや教育現場に周知徹底させることは、子どもの問題行動の予防の上で大きな意味を持つであろう。

(上毛新聞 2001年11月24日掲載)