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◎トラウマ対応 アメリカ同時多発テロを、テレビニュースを通してリアルタイムで目撃した方々も多くおられるだろう。私はちょうど大学から帰宅し、午後十時のニュースを見ようと、テレビのスイッチをつけた瞬間、二機目が低空飛行して国際貿易南ビルに激突した。 トラウマ(心的外傷)と言われるショックと無力感を味わったのは、南ビルに続いて北ビルが崩壊した時であった。それから一週間ほど、深夜や早朝に放映されるアメリカからの報道を見続けていて感心したのは、アメリカ各地でトラウマの急性期(トラウマ体験から四週間)の対応が、適切かつ迅速になされていたことであった。 アメリカではベトナム戦争以後、トラウマに対する研究が進んでいる。災害や多数の犯罪被害者が出た事件のあとは、60%もの被害者にPTSD(心的外傷後ストレス障害)の症状が出るが、急性期に適切な対処がなされると、この数が10%に減少するというのが、いまや常識になっている。 まずブッシュ大統領が国民の感情を代弁し、二日後にはアメリカ全土で犠牲者を悼む礼拝が行われ、参加者を現実と対峙(じ)させ、他の人々と悲しみや怒りを分け合う機会を与えた。感情を表現する場を与えることは、トラウマの治癒の第一歩である。 また、各テレビ局では、青少年のグループディスカッションを放映して、子どもたちの不安感を表現させ、パイロットや軍人などに警備体制の強化を語らせていた。 このような表立った急性期介入活動と同時に、アメリカ各地で行われていたのが被災者、救護者、悲劇の目撃者への危機介入チームによる心のケアであった。このチームはCRT(クライシス・レスポンス・チーム)と呼ばれ、トラウマの急性期介入の訓練を積んだ精神保健に携わる精神科医、臨床心理士、臨床ソーシャルワーカー、臨床看護婦・看護士などによって臨時に構成され、連邦政府、州政府、市町村政府の要望によって出動する。 ビル崩壊のため、救助に当たっていた消防夫や警官が多数死傷したので、ニューヨーク市長の要請により、事件後数時間以内にCRTが消防隊や警察官のグループにディブリーフィングと呼ばれる救急カウンセリングを行い、被災者を探しに来た家族や友人などに対しては、仮設テントの下で二十四時間、七日間体制で、個人カウンセリングを行っていた。 日本でも阪神大震災以後、PTSDに対する理解が深まってきているが、トラウマの急性期介入の大切さはまだ知られていないようだ。今年になってハワイ沖で起きたえひめ丸事件で、ハワイの精神保健センターで働く私の友人が、生存者と犠牲者の家族のためにCRTチームの介入を申し入れたら、日本領事館から「そっとしてあげてほしい」と言われたという。また、池田小児童殺傷事件後、全児童や教員、家族に対する急性期介入が見られなかった。 早く日本でも、自然災害や人災で複数の被害者が出た場合に備えて、国や県の要請にこたえて出動できる危機介入チームが構成されてほしいと願っている。 (上毛新聞 2001年11月15日掲載) |